男子スノーボードハーフパイプ進化の歴史

男子スノーボードハーフパイプ進化の歴史

平昌五輪でも大注目の男子スノーボードハーフパイプ。

 

この競技は恐るべきスピードで進化を遂げており、それを理解して観るとさらにめちゃめちゃ面白いので、その歴史を解説してみたい。

 

 

まず男子スノーボードハーフパイプが五輪の正式種目になったのは1998年の長野五輪から。

 

しかし当時は五輪のスノーボード種目を管轄するのが国際スノーボード連盟ではなく国際スキー連盟になったことなどに対して多くのトップ選手が反発。

 

特に当時のトップ選手だったテリエハーコンセンが五輪をボイコットするなどいざこざがあり五輪はトップ選手が参加しない二線級の大会だった。

 

その流れは2002年ソルトレイク五輪でも続くが、その4年後の2006年トリノ五輪で歴史が大きく動き出すことになる。

 

 

ソルトレイク五輪で決勝に進んだ中井孝治の演技↓

 

 

歴史を動かしたショーンホワイト

 

それは史上最高のスノーボーダーとも称されるショーンホワイトの参戦である。

 

 

当時からトップ選手だったショーンホワイトは圧倒的な強さでトリノ五輪を制覇する。

 

五輪におけるスノーボードハープパイプの歴史はショーンホワイトのトリノ五輪から始まったと言っても決して過言ではないだろう。

 

 

ちなみに日本においても國母和宏や成田童夢、今井メロ、山岡聡子などが出場し、初めてスノーボードハーフパイプが注目された大会がこのトリノ五輪でもある。

 

彼らはW杯では好成績を残していたためメダル候補にも挙げられていたが、当時のトップ選手はW杯には参戦せず、賞金大会のXゲームを主戦場としていた。

 

 

そんなXゲームを主戦場とするトップライダーがショーンホワイトを筆頭に五輪にこぞって参加してきた。

 

そして日本勢に対しても圧倒的な力の差を見せつけた。

 

 

W杯で幾度も表彰台に上がった日本男子陣だが誰一人として決勝の12人に残ることができなかった。

 

また女子でも山岡の10位が最高。

 

W杯を主戦場にしていた日本勢とXゲームの主戦場としていた海外勢との力の差は大きかったのだ。

 

 

スノーボードハーフパイプの技の進化

 

さてここからは歴史が動き始めたトリノ五輪から現在に至るまで技の進化を見ていこう。

 

ただその前にスノーボードハーフパイプの技はよくわからないという人も多いのではないだろうか。

 

キャブダブルコーク1080やらダブルマックツイスト1260やら何のことかよくわからないという人もいるだろう。

 

 

そういう方のためにこれだけは覚えて欲しいという要点を説明したい。

 

それは技の最後につく数字である。

 

この数字は回転数を示している。

 

 

1回転は360度。これが基準になっている。

 

技の最後に720とつけば360×2なので2回転だし900とつけば360×2+180なので2回転半。

 

1080とつけば360×3なので3回転。

 

機会があればバックサイドやらキャブやらの意味も調べてみて頂きたいが、とりあえず数字の意味さえ理解しておけばスノーボードの技について半分は理解できたと思っても良い。

 

 

さてそんな技についてだが、トリノ五輪時点では横回転が主流だった。

 

当時の最高難度と言われていた技は1080。つまり横に3回転する技だった。

 

現在の主流である縦回転系の技もあるにはあったが、全体のルーティンの中でアクセントをつけるくらいの存在であった。

 

大袈裟に言うと縦回転の技で勝負するという概念自体が存在しなかった。

 

 

しかしそんな常識をぶち壊す出来事が起こった。

 

 

ダブルコークの登場

 

常識をぶち壊したのはやはりこの男。ショーンホワイト。

 

彼はトリノ五輪の3年後、バンクーバー五輪を翌年に控えた2009年にダブルコーク1080という新技を披露した。

 

これはかつての最高難度であった横回転の1080に縦2回転まで付け加えた常識を覆す大技であった。

 

 

ちなみにコークという名はコークスクリュー(コルク抜き)の略。

 

横に3回まわりながら縦に2回まわるので回転軸は斜めになる。

 

その回り方がコークスクリューを思い起こさせることからコーク、縦に2回まわるからダブルコーク、そして横に3回まわるからダブルコーク1080ということになる。

 

 

このダブルコーク1080の登場により、世界の主流は一気に縦回転になっていく。

 

「五輪本番ではダブルコークを決めなければ勝てない」ということがトップライダーの共通認識となり、誰もがショーンホワイトの後を追い、ダブルコークを五輪本番までに間に合わせようと猛練習した。

 

 

そして実際に翌年のバンクーバー五輪ではダブルコークを成功させるか成功させないかがメダルの分かれ目となった。

 

ちなみに服装問題や「ちっうっせーな。反省してまーす」で何かと話題になった國母和宏もダブルコークにチャレンジしメダルを狙いにいった一人である。

 

彼は惜しくもダブルコークを成功させることができず8位という結果に終わったが、もしダブルコークを成功させていたらメダルは取れていただろうと思っている。

 

2010年当時はダブルコーク成功=メダルという時代だったのだ。

 

 

そんな中でバンクーバー五輪で金メダルを獲得したのはやはりショーンホワイトだった。

 

他の選手がダブルコークを1回成功させることがやっとという状況の中、決勝の一本目でダブルコークの連続技を成功させた。

 

当時一本成功させることも難しかったダブルコークを連続で決めてしまうのだから、他の選手は勝てるわけがない。

 

 

当時の動画 バンクーバー五輪一本目↓

 

 

こうして一本目のショーンホワイトの滑りを誰も上回ることができず、ショーンホワイトが2本目を滑る前に金メダルが確定。

 

ショーンホワイトの2本目は金メダルが確定した後のウイニングランとなるのだが、このウイニングランで世界は再び驚愕する。

 

 

彼はダブルコーク1080からさらに半回転多くまわる、ダブルマックツイスト1260という技を披露し、成功して見せたのだ。

 

ダブルコーク1080の開発という革命を起こし、他の選手がそれに追随する中で、彼一人だけさらに一歩先に進んでいた。

 

 

これこそがスノーボード界のレジェンドたる所以であり、優勝が決定した後の勝敗には関係のないランで最高の技をお披露目するというのが一流のエンターテイナーたる証であろう。

 

 

バンクーバー五輪 ショーンホワイトのウイニングラン↓

 

 

ソチ五輪でのダブルコーク1440

 

バンクーバー五輪でダブルマックツイスト1260をショーンホワイトが成功させた時のアナウンサーの実況は今でも耳に残っている。

 

「おそらく人類がまわせることができる限界だと言われている技」

 

「これより凄い技は今後でるんでしょうか」

 

実況アナウンサーはそう言っていた。

 

しかしこれが誤りであったことが、4年後、2014年のソチ五輪で明らかになる。

 

 

記憶に新しい人も多いと思うが、ソチ五輪では日本勢の平野歩夢、平岡卓の二人が日本スノーボード界の歴史を塗り替えた。

 

平野歩夢は他の追随を許さない高さ、安定度のダブルコーク1080を成功させ一本目トップに躍り出る。

 

 

そんな平野歩夢に勝つために繰り出したユーリポドラドチコフの決勝2本目のラン。

 

ここでポドラドチコフは4年前にバンクーバー五輪でショーンホワイトが披露したダブルマックツイスト1260からさらに半回転多くまわる、ダブルコーク1440を成功させる。

 

 

まさに一世一代の大技。

 

世界で彼一人しかできない大技を披露させてトップに躍り出た。

 

 

その後平岡卓が連続ダブルコークを成功させ、平野歩夢も完璧なダブルコークを2本決めるも上回れず。

 

ショーンホワイトもダブルマックツイスト1260でミスが出るなどで4位に終わり、金メダルがポドラドチコフ、銀メダルが平野歩夢、銅メダルが平岡卓という結果に終わった。

 

 

そして平昌五輪へ

 

2014年ソチ五輪時点ではポドラドチコフ一人しかできなかったダブルコーク1440。

 

しかしそれから4年が経ち、今はダブルコーク1440を成功させるのが表彰台の条件と言えるくらいのレベルになってきた。

 

かつて人類の限界と言われていた技をさらに上回る技を何人もが成功させる。

 

そんな時代に突入している。

 

 

Xゲームでは平野歩夢がダブルコーク1440を連続で成功させ、さらにダブルコーク1260を連続で成功させた。

 

2018年2月時点ではこの平野歩夢が行った1440→1440→1260→1260というルーティンが人類史上最高難度のルーティンと呼べるだろう。

 

おそらくこのルーティンを平昌五輪でも成功させれば金メダルは間違いない。

 

 

平野歩夢がXゲームで見せたルーティン↓

 

 

トリプルコーク時代へ?

 

しかしスノーボードの技の進化は平昌五輪後もまだ止まらないだろう。

 

スノーボードのビッグエアやスロープスタイルでは主流となっている縦3回転のトリプルコーク。

 

これがハーフパイプでも見られる時代が来るかもしれない。

 

 

横回転の進化はかつての最高難度だった3回転、1080から縦回転が加わったダブルコーク1080、そして1260、1440と4回転までいきついた。

 

しかし縦回転についてはダブルコーク時代から2回転で止まっている。

 

これを3回転、トリプルコークまで引き上げようと努力しているライダーが存在する。

 

 

ショーンホワイトもトリプルコークに挑戦していた一人だったが、練習中に失敗して入院するほどの大怪我を負っている。

 

また中国のウェイチャンは練習ではあるがハーフパイプでのトリプルコークを成功させた。

 

現時点で最高難度のルーティンを持つ平野歩夢も平昌五輪後にはトリプルコークに挑戦するのではないかと私は予想している。

 

 

スノーボードの技は急激に進化してきた。

 

そしてその流れはまだまだ止まらないだろう。

 

そんな時代の流れを感じながら平昌五輪のスノーボードハーフパイプを楽しんで観て頂きたい。

 

 

 

 

 

関連ページ

平昌五輪全日程振り返り&大会総括
平昌五輪が閉幕しました。日本は過去最高のメダル13個と素晴らしい成績を残してくれました。初日から全日程を日本選手の活躍を中心に振り返りつつ、最後に今大会の総括を行います。
平昌五輪16日目ツイートまとめ
いよいよ平昌五輪もクライマックスですね。カーリング3位決定戦と女子マススタート。最後にメダルを積み増すことができるのか注目ですposted at 19:40:28マススタートは決勝に2人残ることがメダルへの必要条件ですかねposted at 19:59:42
平昌五輪15日目ツイートまとめ
いよいよメダル争いが本格化する第3グループ。ショートでは失敗したソツコワでしたがフリーは良かったですね。ソチの浅田真央さんや平昌のネイサンチェンのように吹っ切れていい演技が出るというのは往々にして起こるposted at 12:18:55
平昌五輪14日目ツイートまとめ
ビッグエア決勝もとにかく1回目に得点を残すことが大事。1回目は予選で成功させた技で置きに行ってもいいposted at 09:32:341本目で900を確実に決め、2本目3本目でダブルコーク1080を決める。これが岩渕、鬼塚にとってメダルへの鍵。藤森はダブルコーク1080はできないので900を2本揃えてチャンスを待つposted at 09:36:26
羽生結弦 ソチからの4年と北京までの4年
平昌五輪で見事に五輪連覇を成し遂げた羽生結弦。彼のソチ五輪からの4年間を演技構成を中心に振り返りつつ、今後4年後の北京五輪までどのように過ごすのか。個人的な見方だと断った上で、考えてみようと思います。
平昌五輪13日目ツイートまとめ
大久保残念!1620まで攻めたが・・・posted at 10:13:19女子カーリングは中国、カナダが負けたので韓国、スウェーデン、イギリスまでが突破決定。あと1枠を日本、アメリカで争う。日本はスイスに勝てば決定。負けてもアメリカがスウェーデンに負ければ決定。posted at 11:48:40
平昌五輪12日目ツイートまとめ
さあ男子カーリングが始まりますね。格上のカナダ相手ですが頑張って欲しいposted at 09:03:26日本男子の攻撃的カーリング本当に面白い。波のある戦い方になるけどいい方に傾いた時はかなり強い。「そだねー」が聞けないのが寂しいくらいかwposted at 09:36:07
平昌五輪11日目ツイートまとめ
女子カーリング負けてしまいましたか。夜のスウェーデンも強敵なので今日連敗してしまうと黄色信号posted at 13:00:04女子スノボビッグエア予選は藤森2位、岩渕3位、鬼塚7位で決勝進出。期待できる結果ですね。予選で唯一1080を跳んできたのが1位のアンナガッサー。やはり決勝はダブルコーク1080が金メダルへの鍵になりそうですposted at 13:02:34
小平奈緒 平昌五輪金メダルまでの8年の軌跡
小平奈緒が平昌五輪女子500mで見事に金メダルを獲得してくれました!本当におめでとうございます!そんな小平選手が初めて五輪に出場したのは2010年のバンクーバー五輪。
平昌五輪10日目ツイートまとめ
カーリング男子勝ちましたか!しかも圧勝じゃないですか。夜のスウェーデン戦が勝負ですね。格上相手ですが頑張って欲しいposted at 13:37:31さあ男子パシュート団体が始まります。ここを通過すればベスト4。つまりメダルチャンスが二度とあることになるのでここは是が非でも通過しておきたいところposted at 19:59:28
平昌五輪9日目ツイートまとめ
予定演技構成で羽生君は4回転5本入れることになってるんですが。おいおい待ってくださいよw。マジでやるつもりですかwposted at 09:00:30羽生君の予定演技構成が変わった。4回転を4本に。ループは外す。後半の4S+3Tと4T+1Lo+3Sが勝負4S/4T/3F/FCCoSp/StSq/4S+3T/4T+1Lo+3S/3A+2T/3Lo/3Lz/FCSSp/ChSq/CCoSpposted at 09:54:19
平昌五輪男子フィギュア 試合解説
平昌五輪の男子フィギュアは見事に羽生結弦がオリンピック連覇達成。そして宇野昌磨も銀メダルと素晴らしい結果になりました。今大会の男子フィギュアをショートから振り返って技術的な部分などを解説していこうと思います。
平昌五輪8日目ツイートまとめ
さあフィギュアスケート男子ショートです。羽生も宇野も構成自体は近く、羽生は4S、3A、4T+3T。宇野は4F、3A、4T+3T。どちらも後半の4T+3Tが鍵です。ここで4Tをミスしてしまうとコンボにできず減点が大きいので何としても決めたいジャンプになりますposted at 09:52:37
平昌五輪7日目ツイートまとめ
カーリング女子はデンマークに勝利して2連勝!夜は韓国戦。決勝トーナメント進出のためには負けられない戦いが続きますposted at 13:44:44カーリング男子はイギリスに負けてしまいましたか。昨日強豪のノルウェーに勝てたのとプラマイゼロですかね。まあ勝負はまだ始まったばかりposted at 19:33:19
平昌五輪6日目ツイートまとめ
さあ男子ハーフパイプ決勝が始まります。平野、ショーン、スコッティの争いはもちろんですが仮に上位3人の誰かが崩れた時にチャンスありそうなのが戸塚、片山、ベンファーガソンの3人。戸塚、片山がベンファーガソンを上回る滑りをできるかも気にしていきましょうposted at 10:18:48
平昌五輪男子スノーボードハーフパイプ 史上最高レベルの予選と決勝の展望
今大会の男子スノーボードハーフパイプ予選はまさに記事な書いた通り、飛躍的に競技レベルが向上していることが明らかだった。前回4年前のソチ五輪では平野歩夢、平岡卓の二人がダブルコーク1080を2本決めて銀メダル、銅メダルを獲得した。ダブルコークを2本成功させること。それが4年前のメダルラインだったのだ。
平昌五輪5日目ツイートまとめ
さて女子スノーボードハーフパイプが始まります。松本の一本目に注目ですね。予選と同等の演技をして80点超えできれば二本目以降攻めていける。あわよくばメダル。ソチで岡田良菜が到達した5位という日本勢最高順位は塗り替えて欲しいですねposted at 09:55:22
平昌五輪4日目ツイートまとめ
コリヤダはフリーも苦戦してましたね。朝の競技時間というのもあるかもしれませんがグランプリシリーズにピークが来てしまっていた気もするposted at 10:14:57フィギュア団体はほんの僅かにメダルの可能性があるとしたらアメリカを逆転すること。アイスダンスでは勝てないので男女フリーで田中、坂本が上位かつカナダ、ロシア、イタリアがアメリカ選手の上を行くような結果でないと厳しいですposted at 10:19:22
平昌五輪3日目ツイートまとめ
さあ女子モーグルの準々決勝が始まります。まずは20人から12人に絞られますposted at 20:59:27うーん村田の点数はそれほど伸びなかったか。ターンがよくなかったかなposted at 21:20:00
平昌五輪2日目ツイートまとめ
スピードスケート女子3000が始まりますね。高木美帆は最終組の一つ前の11組に登場。最終組にサブリコワがいるので高木美帆は滑り終えた時点で全体の2位以内には入っておきたい。つまり同走のデヨングには勝たないと厳しいですposted at 19:59:17
平昌五輪初日ツイートまとめ
私の読みに近い感じの結果になりましたねw。宇野君はフリップで片手付いて103点。フリップのミスがなければ世界最高得点に迫る点は出ていたでしょう。調子は良さそうですねposted at 13:48:45
平昌五輪開幕前日ツイートまとめ
明日は男子ノーマルヒルの予選が始まります。日本からは小林潤志郎、小林陵侑、葛西紀明、伊東大貴の4人が出場。もちろん全員予選を突破して欲しいですが特にエースになった小林潤志郎のジャンプには注目。予選を8位以内で抜けることができれば決勝も期待できますposted at 23:51:33
2018年平昌五輪メダル獲得数予想2 スキー、スノボ編
まずはスキー種目ですが、最もメダルが有力なのはノルディック複合の渡部暁斗でしょう。今季W杯で4連勝するなど総合首位を走っており、金メダル本命。ノルディック複合の個人種目はノーマルヒルとラージヒルがあるため、2冠の可能性も十分あります。
2018年平昌五輪メダル獲得数予想1 スケート編
今大会で最もメダルの期待が高いのはスピードスケートでしょう。特に女子のスピードスケート陣は充実の一言です。まずは何と言っても主将でありエースの小平奈緒。