東京パラリンピック 注目の海外アスリート

東京パラリンピック 注目の海外アスリート

パラリンピックのアスリートにも一人一人ドラマがあります。

 

その中でも私が特に興味を惹かれたアスリートについて紹介させて頂こうと思います。

 

 

・陸上競技 マルクス・レーム(国:ドイツ、種目:男子走り幅跳びT64クラス)

 

おそらく現在世界一有名なパラアスリートだろう。

 

健常者のスポーツと障がい者スポーツの垣根を越えてきたアスリートであり、それ故大きな物議を醸してきた選手でもある。

 

ウェイクボードの練習で事故に遭い、右膝下を切断したのは2003年のこと。

 

それから2008年に陸上競技を始めたレームは2012年のロンドンパラリンピックで優勝。この時点では一人のパラアスリート金メダリストという存在であった。

 

転機を迎えたのは2014年ドイツ陸上選手権。この大会でレームは8m24を跳び、健常者を抑えて優勝。

 

そして2015年には8m40、2018年には8m48、さらに今年2021年の欧州選手権では8m62の世界記録を叩き出す。

 

東京五輪の優勝記録は8m41なのでそれを上回っており、健常者の世界記録である8m95も手の届く記録になってきた。

 

レームの登場以前にもオリンピックに出場するパラアスリートはいたが、それは障がい者の偉大なる挑戦という扱いであり、パラリンピアンがオリンピアンに勝つことなど誰も想像していなかった。

 

しかしレームはその常識を覆し、健常者のアスリートに追い付き、そして追い越していったのである。

 

これは紛れもない快挙だが、一方で義足の進化は競技力を著しく高めているという批判も巻き起こることとなった。

 

そして国際陸連は「義足が有利に働いていないことを選手側が証明しなければならない」という条件を出し、悪魔の証明のような条件を出されたことによってレームはオリンピックに出場することを諦めざるを得なくなった。

 

パラスポーツのあり方や健常者スポーツとの関わり方に対して一石を投じたレーム。

 

レームのジャンプを見て社会はそのあり方を考えるべきだろう。

 

マルクス・レームが東京パラリンピックで東京オリンピックの優勝記録である8m41を超えてくる可能性は十分にある。

 

その時、社会は彼のジャンプをどのように受け止めるのだろうか。

 

 

・陸上競技 オマラ・デュランド(国:キューバ、種目:女子100mT12クラスなど)

 

オリンピアンと互角に戦う力があるパラリンピアンはレームだけではない。

 

女子短距離のオマラ・デュランドもオリンピアンと比べても遜色が無い実力を持っている。

 

前回リオ大会の100mでは11秒40の世界記録を出して金メダルを獲得。

 

女子100mの日本記録は福島千里の11秒21なのでそれと比べても遜色が無い。

 

今年の日本選手権の女子100mの優勝記録は兒玉芽生の11秒62なので、今の日本人女子でデュランドのタイムを出せる選手はいないと言ってもいいだろう。

 

前回大会は100m、200m、400mで3冠を達成し、今大会も2大会連続となる短距離3冠を狙っている。

 

 

・陸上競技 タチアナ・マクファデン(国:アメリカ、種目:女子T54クラス)

 

陸上競技で史上最多の7種目制覇を目指すマクファデン。

 

二分脊椎症という先天性の病により、腰から下が麻痺した状態でロシアに生まれたマクファデンは、実母が手放し、孤児院に預けられた。

 

そこで視察のため孤児院を訪れた米国保健局の障がい者担当官、デボラ・マクファデンさんと出会い、養女となり、アメリカへ移住した。

 

陸上競技を始めると才能がすぐに開花し、2004年アテネパラリンピックではアメリカチーム最年少の15歳で出場し、100mで銀メダル、200mで銅メダルを獲得した。

 

その後高校に進学したマクファデンだが、「車いすは危険」という理由から、健常の生徒に混じって競技することを禁止されたことで、地元メリーランド州の公立校制度に対し、障がいのある生徒の学校対抗戦への出場など「機会均等」を求める訴訟を起こす。

 

この裁判に勝訴し、さらに2008年に同州で新たな法律が制定され、これは通称「タチアナ法」と呼ばれるようになり、障がい者の地位を大きく向上させることとなった。

 

競技面でも2012年ロンドンパラリンピックでは400m、800m、1500mを制覇。

 

さらにマラソンでも2013年に4大マラソン(ボストン、ロンドン、シカゴ、ニューヨークシティ)を1年間で全制覇する年間グランドスラムを達成することとなる。

 

その上、2014年、2015年、2016年にも年間グランドスラムを達成し、4年連続年間グランドスラムというとてつもない快挙をやってのけた。

 

前回リオパラリンピックでは7種目中6種目でメダルを獲得。

 

東京パラリンピックでは女子T54クラスで開催される全7種目全てに出場し、金メダルを狙っている。

 

 

・アーチェリー マット・スタッツマン(国:アメリカ、種目:男子個人コンパウンドオープン)

 

先天的に両腕が欠損しているスタッツマンは足で弓を引き、顎と肩で矢を放つ。

 

2010年に競技を始め、2012年ロンドンパラリンピックでは銀メダルを獲得した。

 

彼が出場するコンパウンドオープンは脚と体幹の動きに制限がある選手のクラスであり、両手を自由に使って弓を引ける選手と同じ土俵で戦うということになる。

 

いわば健常者と比べてハンデがあるパラリンピック競技の中で、さらにハンデがあるアスリートと言える。

 

そんなスタッツマンも実力は他の選手と比べても遜色がなく、2019年世界選手権で銅メダルを獲得。

 

今大会も堂々とメダル候補として手で弓を引く選手と渡り合うことになるだろう。

 

 

・アーチェリー ザハラ・ネマティ(国:イラン、種目:女子個人リカーブオープン)

 

初出場のロンドン大会で彼女が獲得した金メダルはオリンピック、パラリンピックを通じてイラン人女性が初めて獲得した金メダルだった。

 

そして2016年のリオ大会はオリンピックとパラリンピックの同時出場を果たし、オリンピック開会式ではイラン代表として騎手を務めた。

 

オリンピックではランキングラウンドで49位、トーナメントはラウンド32で敗退とオリンピックの壁は厚かったが、その後行われたリオパラリンピックでは金メダルを獲得し、連覇を達成した。

 

今大会でパラリンピック3連覇に挑むことになる。

 

 

・卓球 ナタリア・パルティカ(国:ポーランド、種目:女子シングルスクラス10など)

 

オリンピックとパラリンピックの同時出場を成し遂げている選手は卓球にもいる。

 

ポーランドのナタリア・パルティカは2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオ、2020年東京と4大会連続でオリパラ同時出場。

 

2016年リオオリンピックでは女子団体戦の1回戦で日本の福原愛・伊藤美誠ペアと戦い、1セットを取る善戦を見せた。

 

今年の東京オリンピックでも女子シングルス1回戦を4−0のストレートで突破している。

 

先天的に右肘から先が欠損しているパルティカは肘の内側に上手く球を乗せ、投げ上げてサーブを打つ。

 

パラリンピックに初出場したのはまだ11歳だった2000年シドニー大会だった。

 

2004年アテネ大会で初優所すると、北京、ロンドン、リオとパラリンピック女子シングルスで4連覇中。

 

東京パラリンピックでは個人5連覇を目指している。

 

 

・卓球 イブラヒム・ハムト(国:エジプト、種目:男子シングルスクラス6)

 

10歳の時に列車事故で両腕を失ったハムト。

 

そこからなぜ卓球をやろうと思ったのか、その想像力、挑戦心こそ素晴らしいことだと思う。

 

両腕が無い彼はラケットを口でくわえ、サーブのトスは足で上げる。

 

このようなプレースタイルで選考大会を勝ち抜いてパラリンピック本大会の出場権を獲得するのだから恐れ入る。

 

youtubeには2016年世界卓球で平野美宇とエキシビジョンマッチを戦う動画があるので、よろしければご覧頂きたい。

 

https://www.youtube.com/watch?v=odVFcMnKdgs

 

 

・シッティングバレーボール モルテザ・メヘルザード(国:イラン、種目:VS1)

 

身長246cm。先天性の先端巨大症を持つ彼は健常者を含めても世界で二番目に身長の高い持ち主である。

 

最高到達点はブロックで1m96cm、スパイクで2m30cm。

 

そんな彼が障がい者用のシッティングバレーボールに出場するのだから当然スーパーエースとして活躍することになる。

 

16歳の時に自転車事故のため、杖や車いすでの生活になり、2011年にシッティングバレーボールのイラン代表監督からスカウトを受けて、競技人生をスタートさせたメヘルザード。

 

代表デビューとなった前回リオ大会で鮮烈なデビューを果たし、決勝では一人で28得点を記録。見事にイランを優勝へ導いた。

 

シッティングバレーボールはイランとボスニアヘルツェゴビナが2強と言われている。

 

ロンドン大会で優勝したボスニアヘルツェゴビナを破ったのがリオ大会でメヘルザードを擁したイラン。

 

2019年世界選手権でもイランがセットカウント3−0で勝利し、盤石の体制で連覇を狙いに行く。

 

 

・カヌー カーティス・マクグラス(国:オーストラリア、種目:男子カヤックなど)

 

現在のアフガニスタン情勢を彼はどのような思いで見ているのだろうか。

 

元々オーストラリア陸軍の工兵だったマクグラスは2012年にアフガニスタン従軍中に地雷で両足を失った。

 

怪我が治った後にマクグラスはカヌーと水泳を始め、アフガニスタンで足を失ってからほぼ2年後、カヌースプリント世界選手権で金メダルを獲得。

 

そして前回リオパラリンピックでも男子KL2クラスで金メダルを獲得。リオパラリンピック閉会式ではオーストラリアチームの旗手も務めた。

 

2019年の世界選手権でも優勝しており、東京パラリンピックでも連覇に向けて視界良好。

 

さらに今大会からの新種目となるヴァーでも金メダルを狙っている。

 

 

 

 

 

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パラリンピックの開会式実は初めてちゃんと観るposted at 20:00:26そもそも私オリンピックの開会式すら今大会初めてちゃんと観ましたからね(基本的に競技しか興味ない人)posted at 20:27:36
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