世界陸上大阪考察
とりあえずあまりにも長いので目次。段落で区切ってあるんで長すぎるって人はわけて読んでみてくださいw
1、今大会のレベルの高さ
2、レベルの高さを男女短距離種目で考察
3、レベルの高さの要因 @過去に実績を残した選手の復帰
4、レベルの高さの要因 A新星の誕生
5、レベルの高さの要因 B大逆転につぐ大逆転
6、レベルの高さの要因 Cアメリカ勢の強さ
7、日本勢の戦いぶりと今後
というわけで世陸大阪。地元開催にも関わらず日本勢のメダルは一つだけだったということで「あんま盛り上がらなかったのかな?」、「見所にかける大会だったのかな?」なんて思ってましたがいざ観てみるととんでもない!
もうレベルが高い高い!正直日本がダメだったのではなく今大会は世界のレベルが高すぎた
例えばハンマー投げの室伏広治。メダルを期待されつつも80m46で6位でした。これに落胆した人も多いかもしれません。しかしですよ。四年前のパリで 室伏が銅メダルをとった時の記録は80m12。当時の記録を上回っているんですね。
今大会は7位までが80mを越えました。それが03年パリ大会の80m台は3人、アテネ五輪は室伏1人、05年ヘルシンキ大会は2人。普段は80m投げればメダルはとれていたんです。
それが今大会は6位。今大会の異常なレベルの高さがおわかりでしょう。しかしそんな中1〜3投目まで丁重な記録でまさかのベスト8入りを逃すかとも思われた現役世界最高記録保持者のティホン最後の最後の大逆転は本当に凄かった!
室伏は昨年はハンマーを封印し色々な練習方法を試してきました。自分は大会前素人意見で「今でも世界トップクラスなんだから今のままやってりゃいいのに」なんて思ったんですがやはり室伏は先見の目がありましたね。
この世界のレベルの上昇がわかっていたからこそ「何かを変えなくては」と試行錯誤を重ねていたのでしょう。今大会はまだ発展途上。北京では金メダルを狙って欲しいと思います。
また男子4×100リレーでは38秒03というアジア新記録を出しながらも5位。順位だけみればメダルを逃したというそれだけの結果になってしまいますがこの記録は凄いことなんです。
パリの優勝記録は38秒06、ヘルシンキの優勝記録は38秒08。過去二大会だったら金メダルの記録だったんですね。
塚原直貴、末續慎吾、高平慎士、朝原宣治と揃えた日本は確かに史上最強チームでした。
しかし世界最強アメリカにアサファパウエル、ウサインボルトを揃えたジャマイカ、ピカリング、デボニッシュ、マークルイスフランシスを揃えたイギリス、そしてアテネ銅メダルのブラジルと敵もまた強かった!
しかしトップのアメリカまでほんの0,3秒。世界トップに肉薄する戦いを見せました。北京では今度こそメダル獲得やってくれるでしょう。
2、レベルの高さを男女短距離種目で考察
とこのようにレベルの高い戦いはまだまだあります。例えばタイソンゲイの三冠。男子100ではタイソンゲイが後半からの追い込みで世界記録保持者のアサファパウエルを逆転しての金メダル。
アサファはホント大きい大会で勝てないですね。ただ世陸のすぐ後に自らの世界新を0,03秒も大幅に更新する9,74の世界新記録。世界最速の証明をしてみせました。
男子200では二次予選で日本の神山知也をぶっちぎって解説に「強すぎます」と言わしめた天才ウサインボルトを抑えてマイケルジョンソンの持つ大会記録を更新しての優勝。
それにしてもボルトは成長しましたね。まだ21歳ですよ。前回のヘルシンキではまだ若さがみられて結局決勝はケガで記録なしという結果に終わっているんですがいやーあの時に比べて本当に成長した!近い将来敵無しになるでしょうね。
男子400ではやっぱり強かったジェレミーウォーリナー。43秒45という自己ベストをさらに更新する好記録で優勝。MJの43秒18もいよいよ視野に入ってきましたか。
男子110ハードルも前回大会優勝のドゥクレが準決勝敗退するというレベルの高さ。そんな中やっぱり強かったのが劉翔。僅差でトランメルを抑えて優勝しました。
シルバーコレクターのトランメルはまた銀w。新星のダイロンロブレスは力を出し切れませんでしたね。しかしこの競技は劉翔、ドゥクレが21歳、ロブレスが20歳とトップの年齢が若いです。これからも記録は伸びていくことでしょう。
男子400ハードルは前回銅の為末大が予選落ち、前回金のバーションジャクソンが準決勝敗退という波乱。そんな中優勝したのは走力ではNo1と言われながら前回決勝で為末のペースにかき回されて4位に終わったカーロンクレメント。さすがに強かったですね。
これからはカーロンクレメント時代になるでしょうね。また日本の成迫健児も準決勝敗退ながら全体では6位のタイム。これから力をつけていけば為末のようにメダルをとる日もそう遠くはないでしょう。
女子の方に目を向けると女子100は本当に大混戦
一位 ベロニカキャンベル 11,01
二位 ローリンウイリアムズ 11,01
三位 カーメリアジーター 11,02
という恐るべき大混戦。肉眼では確認不可能だった順位は実に0,002秒差でベロニカが金メダルを獲得しました。
世陸での大接戦というと93年シュトゥットガルト大会でのゲイルディバース対マリーンオッティの0,004秒差というのがありますが今大会はそれを上回る本当に歴史に残るレースとなりました。
200では本当に強かったアリソンフェリックス!
最近のこの競技は大体ベロニカキャンベル対アリソンフェリックスなんですがアテネではベロニカが力の差を見せ付けて勝ち、ヘルシンキではアリソンが勝ったもののベロニカがコーナーで膨らむという大きなミスがあって棚ぼた的に手に入れた初優勝。
当時はまだまだベロニカのが実力は上でした。
それが二年で完全に逆転しましたね。自己記録を0,2秒更新し、二位のベロニカと0,5秒差をつけるぶっちぎりの金メダル。もうこの種目でアリソンに勝てる選手は10年間は現れないでしょう。
3、レベルの高さの要因 @過去に実績を残した選手の復帰
また今回の特徴として過去に活躍した実績のある選手がほとんどケガなどのアクシデント無く出場してきたのもレベル引き上げの大きな要因となりました。
例えば女子走り高跳びでは前回のヘルシンキではパリ王者のカイサベリークイスト一強で無敵の強さを発揮して大会二連覇を成し遂げました。
それが今大会はアテネ金のエレーナスレサレンコのケガからの復帰、さらには新星ブランカブラシッチの登場で一気にハイレベルに。
結果前回までは無敵を誇っていたベリークイストがメダル無しに終わるというレベルの高さ。そして時代はブランカブラシッチのものとなりました。いずれ彼女は世界記録保持者になるような予感がします。
また男子中長距離でアテネ1500銀のバーナードラガトが久々の国際大会復帰。
彼はアテネの後国籍をケニアからアメリカに変えて、規定により今大会まで国際大会に出れなかったのですが久々に復帰して早々1500と5000の二冠を成し遂げてしまったのだから恐れ入る。
1500や5000にはラシドラムジ、ブンゲイ、ベケレ、キプチョゲという強力なライバルが数多くいるのですが彼らを全員なぎ倒しての二冠というのは素晴らしい。
1500と5000の二冠はアテネの時にヒシャムエルゲルージが成し遂げています。そしてその時エルゲルージに敗れたのがラガト。三年後エルゲルージが引退した今ついに世界一の座に登りつめましたね。
女子400ハードルでは前大会は世界記録保持者のペチョンキナに敵はいないという状況でした。しかし今大会は出産後に復帰したパリ金メダリストのヤナローリンソン(旧姓ヤナピットマン)が登場。
さらには2004年アテネ五輪でこの二人を抑えて優勝したギリシャのハルキアも久々の出場。
ペチョンキナ一強時代が終わりました。そしてハルキアは準決勝で敗退するものの決勝は予想通りペチョンキナ対ローリンソンの一騎打ち。そしてローリンソンが勝ちました。
03パリに続いてローリンソンに敗れた世界記録保持者ペチョンキナ。世界記録保持者でも勝てないハイレベルなレースになりました。
女子棒高飛びではやっぱり強かったエレーナイシンバエワ。彼女の強さは圧巻ですね。たった3回のジャンプで優勝を決めました。次元が違います。
なにせほんの5年前、彼女が登場するまでは世界記録は4m70台だったんです。それが今では彼女は4m80を楽々更新してしまう。世界記録更新はなりませんでしたがやはり見事です。
ただ私が注目したのはパリでイシンバエワに勝ったスベトラーナフェオファノア。
近年棒高跳びの記録が急上昇したのはイシンバエワとフェオファノアが二人合わせて30回近く世界記録を更新したからなんですが久々に国際舞台に帰ってきてメダルを持って帰りましたね。
4、レベルの高さの要因 A新星の誕生
今回最もインパクトを残した新星といえば男子走り高跳びのドナルドトーマスでしょう。なんか子供が喜びそうな名前ですがwこの人高飛びを始めてまだ18ヶ月。
元々はバスケの選手で練習中に遊びで飛んでみたらいきなり2mを超えてしまってそれで転向してみたというなんとも凄い選手ですw
技術も解説から「足バタバタ」、「空中三段飛び」などと酷評されるほどめちゃくちゃ。それでもステファンホルムなどの強豪に勝っての金メダルですからね。
いやー信じられません。ホルムも信じられないというような顔をしてましたけどw。本当に凄い逸材が現れましたね。
男子砲丸投げでは前回王者アダムネルソンを破ってリースホッファーが22mを投げて初優勝。
女子800ではベンハシ、マリアムトラ、チェルカソワら強豪を打ち破った17歳ジェプコスゲイ。いやーベンハシ応援してたんだけどなw
5、レベルの高さの要因 B大逆転につぐ大逆転
そして高レベルな要因その3。大逆転の連続。今大会は本当に最後の最後での大逆転が多かったです。冒頭で紹介したイワンティホンやタイソンゲイなどもそうですね。
男子走り幅跳びは面白かった!一回目の試技でアメリカのドワイトフィリップスが大ジャンプ。これを越える選手はなかなか現れずこのまま優勝は決まりかと思われました。
しかし五回目でバハマのサラディノが逆転。六回目の最終試技でイタリアのアンドリューハウが再逆転!
逆転につぐ逆転でついに勝負は決まりかと思われました。しかし最後の最後。最後の試技の最終跳躍者であるサラディノが再々逆転!ここにドラマが待っていました。91年東京大会のマイクパウエル対カールルイスを彷彿とさせるような名勝負でしたね。
女子砲丸投げも似たような展開。前回王者のオスタプチュクが投げた一本目を誰も越えることが出来ずついには最終投擲。このまま勝負は決まるかと思われました。
しかししかし!最後の最後でオーストラリアのビリが大逆転!実況の言い方を真似るならだいぎゃくてーーーん!w。名前はビリだけど一位になりましたw。
6、レベルの高さの要因 Cアメリカ勢の強さ
そして要因その4。アメリカ勢の強さ。今大会のアメリカ勢の強さを顕著に示していたのはなんといってもリレーでしょう。男女リレー4種目完全制覇は世陸史上初。
男子4×100はウォーレススピアーモンを二走、タイソンゲイを三走に置いたオーダーで優勝。
男子マイルリレーは400m金のウォーリナー、銀のラショーンメリット、銅のアンジェロテイラーという三人を揃えた超豪華布陣。世界記録目前まで迫りました。
女子4×100は一走に100銀のローリンウイリアムズ、二走に200金のアリソンフェリックス、三走に100銅のジーター、そして四走にエースのトーリエドワーズを持ってきた完璧な布陣で圧勝。
女子マイルでも二走にまたまたアリソンフェリックス、そして四走に現役世界最強のサンヤリチャーズを持ってきた布陣で勝利。
いやー強すぎますw。結局金14、銀4、銅8という圧倒的な成績を収めました。
7、日本勢の戦いぶりと今後
そして最後に日本勢に目を向けてみましょう。
今回は厳しい戦いになりましたね。光明が見えたのは銅を獲得した女子マラソン土佐礼子、五位に入った男子マラソン、そして先ほども述べた男子4×100リレーに成迫といったところでしょうか。
ただ女子マラソンにしてもやはり1,2位のキャサリンヌデレバ、周春秀は強かったと言わざるをえない。北京では強力なライバルになりそうです。特にヌデレバは本当に恐るべし!
03パリで金、04アテネで銀、05ヘルシンキで銀、そして今大会の大阪で金。ありえないほどの安定した成績です。
現在の女子マラソンの4強はこの二人にポーララドクリフと野口みずきを加えた四人だと言われています。つまり北京ではこのヌデレバ、周春秀、ポーララドクリフを誰かしら破らないとメダルはとれないわけですね。
もちろん金を獲るには全員に勝たなければなりません。そういう意味で今回土佐がヌデレバや周春秀に負けたのは不安材料と言わざるをえない。
男子マラソンにしても確かに尾方剛は世界トップクラスの実力の持ち主です。今回も3,4位のルートリン、アスメロンに抜き返されたものの十分メダルの手が届く位置にはいましたし地力では尾方の方が上です。
しかし今回金のキベト、銀でアジア大会も制したシャミ、アテネ金のステファンバルディーニらに勝たなければ北京のメダルはない。
現在男子世界最強のハイレゲブラセラシエが北京出場を回避したのは好材料ですがそれでもこのままではメダルをとれるかどうかという微妙な状況。さらなる実力アップを期待したい。
今大会は日本勢に暑さとプレッシャーによる痙攣が続出しましたね。棒高飛びの澤野大地、走り高跳びの醍醐直幸、400の金丸祐三、200の末續慎吾などなど。そして女子走り幅跳びの池田久美子も満足のいく記録を出せず予選敗退。
彼らは非常に悔しい思いで大会を後にしたでしょう。しかし今大会をバネに北京では是非メダルを狙ってほしい。今回の敗戦で自分に何が足りないのかがわかったと思います。戦いはこれからです。負けたことがあるというのがいつか大きな財産になる(by山王監督)
というわけで今大会の世界陸上はこれにて閉幕。本当に素晴らしい戦いを見せて頂いてありがとうございました。
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